くまちゃんとおじさん、かわをゆく
幼い頃はやはり、自分を引っ張ってくれるアニキ分に懐いてしまうものである。
私には兄がひとりいるのだが、幼い頃はむやみやたらに暴力的で実に恐ろしかった。
一応ついて回ってはいたが、正直びくびくしながら遊んでいた。
そこで私は近所に住んでいたT君と遊んでいた。
T君は兄の同級生だった。
だけどなぜか兄とは遊ばないで、私とよく遊んでくれた。
彼はひとりっ子だったから、弟分が出来てうれしかったのだろう。
T君は私を「いくぞ! ついてこい!」と引っ張りまわしてくれた。
家の近くにあった林の中にある古い大きな家(屋敷と言いたいところだが……あれはどう見ても『家』であった)に探検に行ったし、すこし遠くの土地まで自転車を漕いで行ったりした。
T君といると、なんだか少し大人になった気がしてうれしかった。
ちょっと危ないことをすること、言うなればほんのちょっとの冒険は、幼い私を少しだけたくましくしたのだ。
『くまちゃんとおじさん、かわをゆく』を読んだとき、私はその感覚を思い出した。
この作品は、主人公、こぐまのくまちゃんが、遊びに来ていた(たぶん)おかあさんくまの弟、つまり叔父さんと一日お留守番をするお話だ。
おじさんっていいよな。
お父さんとも兄ちゃんともちがうのだ。
近いけど、ちょっと遠い感じがする。
可愛がってくれてるけど、ちょっと雑なカンジがして、だけどそれが対等に扱ってくれてるようでうれしかったりするのだ。
この物語のなかで、おじさんくまは、私の思い出の中のT君のように遊びに誘ってくれる。
その誘い方が実に良いんだ。
「~しようぜ」と誘ってくれるのである。
「~しようよ」
「~しようか」
では無いんだ。
「~しようぜ」
この誘い方がたまらなく良い。
先ほども書いたが、対等なカンジがする。
いっしょに遊ぼうぜ、って言ってくれてる気がする。
「うん! やりたい! でもどうすればいいの?」
なんて気軽に聞けてしまいそうな、カラリとしたやさしさに満ちている。
絶対に楽しいことが待っているような気がしてしまう。
いいよなぁ、この誘い方。
作中で、タイトル通り、くまちゃんとおじさんは川をカヌーでくだる。そしておじさんが見つけてくれたのいちごのたくさん生えている場所で腹ごしらえして、くまちゃんはそのあと、生まれて初めて自分で魚を捕るのだ。
いつもはおかあさんが捕ってくれているのに!
あぁ、なんという冒険の一日!
きっと誰もが、こんな一日をいつか体験しているのだ。
もしかしたら、おじさんと遊んでいるところをおかあさんに見られたら、くまちゃんは止められてしまうかもしれない。
怒られてしまうかも。
危ない。あなたにはまだ早い。なんて言われてしまうかもしれない。
だけど、物語の最後、くまちゃんとおじさんは一足早く家に帰って、おかあさんとおとうさんを迎える。
そして、くまちゃんはおかあさんに言うのだ。
「はじめてさかなをとったんだ こんどおかあさんのすきなさかなをつかまえてあげる」
思わず私は微笑んでしまった。
やはり、アニキ分との冒険は、私たちを確実にたくましくさせる。
懐かしく、あたたかな気持ちになれる『くまちゃんとおじさん、かわをゆく』。
おすすめです。
ぜひどうぞ!