雨、あめ
雨の日、好きですか?
今日、僕が住む町は雨でした。
なかなかに強い雨で、造園工として基本的に外で働いている僕は、とうとう雨合羽と長靴を履いて草むしり。
今は見習いなので、刈られた草を集めるのが主な仕事です。
草の刈られた箇所には、スズメやハトやムクドリ。
ルリツグミなどがやって来て、チュンチュン、クルックー、ギャッギャッと言いながら、我々の仕事により住処を奪われて、体がさらされた虫たちをつついています。
雨が降っても鳥たちは、最初の方はエサをとりますが、だんだん雨脚が強まるとどこかへ飛び去ってしまいます。
僕はそれを横目に見ながらほうきで、ぬれて重くなった草を集めます。
雨が強まるまで雨合羽を着なかったものですから、作業着はすでに十分に水分を含んでいて、僕自身から発せられる熱が合羽の中でこもっています。
まだまだ降り続き、草とぬれた土の香りが立ち込め、だんだんと水たまりが出来ていく世界。
そして、合羽の中のなんだか懐かしい熱気から、僕はピーター・スピアーの『雨、あめ』という絵本を思い出しました。
『雨、あめ』
作:ピーター・スピアー
出版社:評論社
アメリカを代表するイラストレーターであり、絵本作家であるピーター・スピアー。
彼の絵はとても繊細で、色彩は豊かであるのに落ち着いた色合いをしており、なによりユーモアにあふれています。
この作品は、庭で遊んでいた幼い姉弟が、突然降りだした雨の中に、雨合羽と長靴を身に着けて探検をしにいくことばのない絵本です。
まず表紙をめくった瞬間に、思わず目を奪われてしまうはずです。
アメリカの家の広い庭が、ペンと水彩絵の具を使ったスピアーのやさしさに充ちたタッチによって描かれています。
幸せとやすらぎがあふれたその絵には、空のはじっこに暗雲がせまって来ています。
ふしぎなことに、そのやってくるまっ黒な雨雲さえも、スピアーにかかれば冒険の予感。
楽しいことのはじまりの合図に思えてしまうのです。
さすがピーター・スピアー!
なぜだか子どもはどろんこ遊びが好きですよね。
最初、僕が仕事のときのとことを懐かしい熱気と書いたのも、幼い頃、僕も雨の日や雨上がりに外で走り回って、泥を使って大好きだったからです。
ふしぎなもので、20年以上前のことなのに、その時の肌の感覚やにおいというのは染みついているものなのですね。
物語の中で、姉弟は、出かけるときはお母さんがやさしく見送ってくれ、帰ってきたときもお風呂を準備していてくれています。
あぁ、僕もそうだったな。
いつだってお母さんが見守ってくれていました。
最後に姉弟はおいしい夕ご飯を食べて、あたたかい家の中から日が暮れた街に降る雨を眺めます(弟はなぜかずっと半ケツです。ここがスピアーのユーモアあふれるところ。思わず微笑んでしまいます)。
そして、朝が来ると雨は上がっていました。
良く晴れていて、庭は雨に洗われて光輝いています。
なぜだか僕は、このちいさなちいさな物語を読むと、このおおきなおおきな世界がすばらしいものだとすら思えるのです。
ありがとう、ピーター・スピアー。
おかげで僕は明日も歩いていけそうです。