『クリスマス・イブ』
マーガレット・ワイズ・ブラウンは、言わずと知れた絵本作家だ。
絵は描かないけど、いつだってすばらしい物語を作り上げてくれる。
この『クリスマス・イブ』は、彼女の遺作であるらしい。
その作品に、ベニ・モントレソールという、イタリアの舞台美術家出身の作家が絵を付けたものである。
不勉強であるが、ベニ・モントレソール、初耳であった。
「『ベニ』が男なのか女なのかも分からないな。日本人だから、紅(べに)でなんとなく女の人っぽい雰囲気に感じてしまうけど……」
……なんだか貧弱な発想をしている気がしてきた。
まぁ、とにかく調べてみると男性であった。
芸術家・オペラ演出家・映画監督・舞台美術作家・美術、衣装デザイナー。
そして絵本作家、と並々ならぬ肩書きの数々である。
絵本をめくると、その肩書きの数々に恥じぬ圧巻のイラストが広がる。
———まよなかのことでした。
———それも クリスマスの そのばんでした。
無駄なことばの無い物語の始まりは、マーガレット・ワイズ・ブラウンの得意とするところだ。
ガシーンッ、と心をつかみ、私たちは物語のなかへ。
彼女の文章はうるさくない。
しずかでやさしい。
彼女の文章そのものが、幼い頃に感じたおだやかであたたかな夜のようである。
オレンジの下地に黒、黄色、赤のみで描かれたベニ・モントレソールの絵がまた、無駄をそぎ落としたシンプルなもので、そのデザインの普遍さが、作品にさらなる落ち着きとしずけさをもたらしてくれる。
クリスマスのまよなか、4人の子どもたちが眠れず、ひっそりと寝室を出て、クリスマスツリーにおねがいことをしに行く物語。
子どもたちは途中、窓の外から歌声を聴く。
きよしこの夜。
大人たちの歌うその曲を聴いた子どもたちは、寝室に戻ってゆく。
ふしぎなこと。
言い換えれば、魔法のようなことは夜に起きるものだと、私は幼い頃に思っていた。
この絵本は、そんな私の幼い頃に捧げられている気がする。
魔法のような夜が、この絵本の中にある。