『ぐぎがさんとふへほさん』
『ぐぎがさんとふへほさん』
岸田衿子・作
にしむらあつこ・絵
福音館
タイトルからしてナンセンス。
本を開くと、やはりやはりのナンセンス。
まず、ぐぎがさんは家の玄関のドアを押すと、ドアはぐぎがさんの形に穴が空く。
ふへほさんはおなかがすくと宙に浮いてしまうクセがある。
うーむ、ナンセンスである。
とんでもないふたりだ。
釣りをすれば、ぐぎがさんは大きなブルドーザーを釣り上げる。
ふへほさんはふにゃふにゃの空気の抜けたゴムボート。
ぬぬぬ。よくわからない。
よくわからないけど……。
楽しければなんだっていいのだ!
文は岸田衿子さん、絵はにしむらあつこさん。
岸田衿子さんのナンセンス絵本はめずらしい気がする。
『かばくん』おもしろかったなぁ。
くまちゃんとおじさん、かわをゆく
幼い頃はやはり、自分を引っ張ってくれるアニキ分に懐いてしまうものである。
私には兄がひとりいるのだが、幼い頃はむやみやたらに暴力的で実に恐ろしかった。
一応ついて回ってはいたが、正直びくびくしながら遊んでいた。
そこで私は近所に住んでいたT君と遊んでいた。
T君は兄の同級生だった。
だけどなぜか兄とは遊ばないで、私とよく遊んでくれた。
彼はひとりっ子だったから、弟分が出来てうれしかったのだろう。
T君は私を「いくぞ! ついてこい!」と引っ張りまわしてくれた。
家の近くにあった林の中にある古い大きな家(屋敷と言いたいところだが……あれはどう見ても『家』であった)に探検に行ったし、すこし遠くの土地まで自転車を漕いで行ったりした。
T君といると、なんだか少し大人になった気がしてうれしかった。
ちょっと危ないことをすること、言うなればほんのちょっとの冒険は、幼い私を少しだけたくましくしたのだ。
『くまちゃんとおじさん、かわをゆく』を読んだとき、私はその感覚を思い出した。
この作品は、主人公、こぐまのくまちゃんが、遊びに来ていた(たぶん)おかあさんくまの弟、つまり叔父さんと一日お留守番をするお話だ。
おじさんっていいよな。
お父さんとも兄ちゃんともちがうのだ。
近いけど、ちょっと遠い感じがする。
可愛がってくれてるけど、ちょっと雑なカンジがして、だけどそれが対等に扱ってくれてるようでうれしかったりするのだ。
この物語のなかで、おじさんくまは、私の思い出の中のT君のように遊びに誘ってくれる。
その誘い方が実に良いんだ。
「~しようぜ」と誘ってくれるのである。
「~しようよ」
「~しようか」
では無いんだ。
「~しようぜ」
この誘い方がたまらなく良い。
先ほども書いたが、対等なカンジがする。
いっしょに遊ぼうぜ、って言ってくれてる気がする。
「うん! やりたい! でもどうすればいいの?」
なんて気軽に聞けてしまいそうな、カラリとしたやさしさに満ちている。
絶対に楽しいことが待っているような気がしてしまう。
いいよなぁ、この誘い方。
作中で、タイトル通り、くまちゃんとおじさんは川をカヌーでくだる。そしておじさんが見つけてくれたのいちごのたくさん生えている場所で腹ごしらえして、くまちゃんはそのあと、生まれて初めて自分で魚を捕るのだ。
いつもはおかあさんが捕ってくれているのに!
あぁ、なんという冒険の一日!
きっと誰もが、こんな一日をいつか体験しているのだ。
もしかしたら、おじさんと遊んでいるところをおかあさんに見られたら、くまちゃんは止められてしまうかもしれない。
怒られてしまうかも。
危ない。あなたにはまだ早い。なんて言われてしまうかもしれない。
だけど、物語の最後、くまちゃんとおじさんは一足早く家に帰って、おかあさんとおとうさんを迎える。
そして、くまちゃんはおかあさんに言うのだ。
「はじめてさかなをとったんだ こんどおかあさんのすきなさかなをつかまえてあげる」
思わず私は微笑んでしまった。
やはり、アニキ分との冒険は、私たちを確実にたくましくさせる。
懐かしく、あたたかな気持ちになれる『くまちゃんとおじさん、かわをゆく』。
おすすめです。
ぜひどうぞ!
『きょうのごはん』
日曜日は図書館の日になりそうです。
スマホのゲームをしたり、録りためたテレビ番組(『未来少年コナン』『ガキの使いやあらへんで』『男子ごはん』など)を観た後、車に乗り込み、好きな音楽を流しながら図書館に向かいます。
工藤裕次郎さんが日曜日にピッタリで無限に聴いてしまいます。
あぁ大好きだぁ。
もうすぐ僕の住む町は梅雨に入ります。
その少しの間湿った季節が終われば夏がやってきます。
夏は児童書の季節です。
だれがなんと言おうとそうなのです。
緑が萌えて、空は青く、水は輝き、風は流れていくのです。
あぁ、旅に出たい。
冒険をしてみたい。
そんな気持ちが芽生えたら、もう本を開くしかありません。
うふ、うふふふ。
今年はなんの本を読もうかしら。
時間を作って読んでいかねば。
文章も書かねば。
そんなこんなで、今回の絵本はこちらです。
『きょうのごはん』
作:加藤休ミ
出版社:偕成社
対象年齢(筆者感覚):小学生中学年から(むしろ大人のアナタへ)
主人公は商店街近くに住み着いている猫です。
すごく端的にいえばこの作品は、猫の夕飯パトロールの様子を描いたものなのであります。
猫さんは、おいしそうなにおいがするおうちへ通りがかると中を覗き込みます。
そこにはありふれた家庭の、ありふれた料理が。
さんま。コロッケ。カレーライスにオムライス。
お祝いごとのあるおうちではお寿司がふるまわれ、猫さんはおでんとうどんの屋台でおこぼれをもらいます。
やっぱりみんな、おいしいものが好き。
そうしてこの絵本に出てくる料理は、どれもこれもとてつもなくおいしそうなこと!
たぶん、クレヨンや絵の具でぐりぐりと塗られた、すこし重さを感じる絵なのですが、その重厚さが良い。
その存在感たるや。
僕は思わず、この絵本を読みながらつぶやいてしまいました。
「腹減ったぁ。なんか食いてぇー」
腹が減って、それなのになんだか幸せな気持ちが湧いてきます。
夕飯時、おいしそうな匂いのただよう道を歩いているような絵本。
『きょうのごはん』をご紹介させていただきました。
それでは!
おたんじょうびのおくりもの
ゆきがやみました。
そんななにかがおこりそうな一文で始まるこの絵本。
山脇百合子さんの、素朴でかわいい絵の表紙が目に留まります。
『おたんじょうびのおくりもの』
作:むらやまけいこ
絵:やまわきゆりこ
出版社:教育画劇
うさぎのみみーのもとへ、ぴょんぴょんはでかけていきます。
なぜならきょうは、みみーのお誕生日。
カレンダーをみるまでは、ぴょんぴょんはそのことをすっかりわすれていたんですけどね。
ぴょんぴょんはどうやら、わすれっぽい性格のようです。
なぜなら、みみーのプレゼントにしようと考えた、とってもおいしいりんごのゆくえも忘れてしまうのです。
ああそうだ、あそこあそこ。なんて、さがしてさがして。
ようやくぴょんぴょんは、そのありかを思い出します。
はてさてりんごはどこに。
ぴょんぴょんはぶじに誕生日を祝うことができるのか?
ぜひどうぞ!
がたごと ばん たん
先日、僕の住む街でも図書館がようやく開放されました!!!
司書の方、スタッフの方、お疲れ様です。ありがとうございます!
二か月ぶりくらいの図書館だったでしょうか。
いやぁ、やっぱりいいもんですね!
たくさんの見たこともないような本。
本好きの同志たち。
併設されたおいしいパン屋さん。
うろつくだけでも落ち着きます。
まだ席についての閲覧はできませんが、本は今までどおり借りることができました。
というわけで、10冊定量いっぱい借りてきました。
一冊文庫本(チャップリン自伝)と、それ以外はすべて絵本。
「おほほほ、これはすばらしい」「あらまぁ、これもすてき」とページをめくるのが楽しい本がたくさん。
そのなかで、おすすめの一冊はこちらになっています。
『がたごと ばん たん』
作:パット・ハッチンス
訳:いしづ あけみ
出版社:福音館書店
対象年齢(筆者感覚):幼児から
おじいちゃんとぼくとめんどりが、この絵本登場キャラクターです。
おじいちゃんの押すておしぐるまに乗ったぼく。
がたごと ばん たん
がたごと ばん たん
と、ておしぐるまは進みます。
すると、あかいめんどりがついてきました。
ぼくは、めんどりさんに、自分のできることをどんどん自慢していきます。
ちいさい子って、ほんとうこういうところありますよね。かわいいです。
「みて みて めんどりさん
ぼく こんなこと できるんだよ」
じゃがいもをほったり、おじいちゃんにてつだってもらってまめをとったり。
かわいいったらありゃしません。笑
すべての収穫が終わって、またておしぐるまを押して家に戻ると、今度はめんどりはいてきません。
そこで次はふたりがめんどりについて、鳥小屋まで歩いていきます。
するとそこには、めんどりがぼくのために産んだ、とびきりのたまごがひとつ置いてあったのでした。
ロンドン在住のパット・ハッチンスの描いた絵本です。
畑に植わっている植物は、表紙のそでの部分に名前が書いてあって、読むのが楽しくなります。
個人的にはおじいさんの、なんというか、孫にはやさしいけどそれだけではない、どこか厳しそうな顔つき、動作が好きです。
色合いもくっきりしていて、土のにおいがしてくるような光にみちた絵になっています。
梅雨が近付いている昨今、こんな晴れやかな絵本はいかがでしょうか。
わーい、図書館わーい!
それでは!
おおかみと七ひきのこやぎ
愛しのフェリクス・ホフマン!!
幼いころ、家の近くの病院にこの絵本はありました。
風邪をひくといつも連れてこられていた病院。
一時間に一回、ゴーンとなるおおきな置時計がある病院でした。
母親が読んでくれる声と、消毒液のにおい。
思い出の絵本で、少し前に、地元の古本屋に安くで売っていたので購入。
どこかの幼稚園から引き取られたもののようで、本のさいごに印がありました。
これが古本屋のいいところですね(鼻息)!
かしこいこやぎたちと狡猾なおおかみ
この絵本のものがたりは、おかあさんやぎがおでかけする際、7匹のこやぎたちに「おおかみがくるからとびらをあけないこと」といいのこして、こやぎたちはしっかり約束するのですが、おおかみのあの手この手のやり口に、とうとうとびらをあけてしまう。
というものです。
こやぎたちはすえのこをのこして食べられてしまうのですが、まるのみにされたので、おかあさんやぎに見つかった時にはまだ生きていました。
おなかいっぱいでねむってしまったおおかみのおなかをハサミで裂いてこどもたちを救い出し、そのかわりにおおきな岩を詰めて糸でぬい、起きたおおかみはどうにものどがかわいて、井戸で水をのもうとして転落し、岩のおもさに耐えきれず、そのままおぼれて死んでしまいます。
「……いま読むとけっこうえげつないことしてるな」
絵本あるあるですね。
犬が好きで、現在、元野良犬の雑種を世話している僕からすると、おおかみが少し我が家の犬に似ていて心苦しいです。笑
しかし、フェリクス・ホフマンの絵は宝石のように純粋で美しく、その世界は、なんびとにもけっして傷つけられないような、ふしぎなちからを感じます。
だからこそ子どもたちも、私たちおとなも、安心してこの作家の絵本を読むことができるのでしょう。
もちろんストーリーも、原作がグリム童話であるためか、絵本のきほんである、だんだんとおおかみがこどもたちの信頼を得るための行動をおこす、くりかえしの展開。
7ひきのこやぎたちが、おおかみが突入してきた際かくれる場所を丁寧に書く、数字の勉強にもなるし、子どもがわくわくハラハラする見せ方も自然に取り入れています。
さいごは見事なまでのハッピーエンド。
素直にこれを見て「わぁ、よかった」という子もいるでしょうし、たぶんきっと「でも、おおかみはちょっとかわいそうかも」と思う子もいるでしょうね。
どちらの子の感想も間違っていませんね。
だからこそ、おとなになって、いろいろな見方もできる一冊だと思います。
おすすめです。
それでは。