あくたれラルフ
あくたれ? チンピラ? 腹が立つけどニクメナイ猫の物語
絵本とは実に多種多様でおもしろいものであります。
絵本ビギナーの僕は読めば読むほどに、それを実感していました。
しかし、それと同時に、すこしばかりモヤモヤとしたものが心に溜まり始めていました。
それはすなわち
「ひねくれた作品が少ないなぁ」
という、性根のひねくれた僕ならではの、これまたひねくれたふらすとれいしょんなのでありました。
やっぱりいい子の話、すてきな話が多い気がしてしまったのです。
ところが、今回紹介する、この『あくたれラルフ』は、そんな僕の前に、まるで当たり屋のように躍り出てきやがったたのでありました!
このあくたれめ!
ばっちり車載カメラで撮っているからな!
ううむ、思わず口も悪くなってしまう。
絵本の記事の時は丁寧なことばづかいで行こうと思っているのに!
しかし、これが『あくたれラルフ』の魅力なのです。
『あくたれラルフ』
作:ジャック・ガントス
絵:ニコール・ルーベル
訳:石井桃子
出版社: 童話館出版
一度見たら忘れらないその絵は、まるで子どもが描いたような、力強く、ふてぶてしいとまで思える色使い、線。
はじめて手に取った時、その奔放さに、おもわず「ほーっ」と息がもれました。
とにかく「あくたれ」な猫、ラルフ。
どれだけ「あくたれ」かというと、飼いぬしでセイラの乗っているブランコのぶら下がっている枝を切り落としたりするくらいの「あくたれ」なのです。
僕は読みながら何度
「おい!」
と声を荒げたことでしょう。
とにかくひどい。
やりすぎです、この猫は。
「おとうさんのスリッパをはき おとうさんのいすにこしかけ
おとうさんがいちばんだいじにしているパイプでしゃぼんだまをふいていました」
おい!
「つぎの日のゆうがた ラルフはじてんしゃでしょくどうにとびこんできて
テーブルにどっしんとしょうとつしました」
このページのラルフは、パーティーのおおきなケーキの上にあたまからつっこんで、首から下がテーブルと垂直になっています。
おい!!
僕は思いました。
もはやこの猫は「あくたれ」を超えて「チンピラ」だと。
ラルフはある日、家族で観に行ったサーカスで、またもや「あくたれ」ぶりを発揮し、空中ブランコでつなわたりする人をけり落としたりして(おい!)、とうとう家族に愛想を尽かされ、サーカスに置いていかれてしまいます。
「ときどき あんたを かわいいとおもえなくなるわ」
サーカスでラルフはいじめられてしまい(ゾウに水をかけられたり)、脱出した先でも「やくざのねこ」にいじめられてしまいます。
やくざのねこですよ!!(大興奮)
そんなワードが登場する絵本、この作品くらいなのではないでしょうか。
素晴らしい。
これで笑わないオトナがいるでしょうか。
しかし、ラルフはとうとう、夜の路地裏で生ごみを漁りながら、涙を流して思います。
「ぼく さみしい」
その瞬間、読者は一瞬で彼のすべてを許してしまうのです。
なんてしずかで、さみしいことばなのでしょうか。
どこかでこんなことを思っている子どもがいると知ったら、黙っていられる大人がいるでしょうか。
そうして、ラルフのもとへ、主人のセイラとその家族が迎えにやってきます。
子どもたちよ、家族はいつだって君のことを愛しているのです。
「あくたれ」ラルフも反省し、彼は家族の一員に戻るのでした。
最後はそんな家族の愛を感じながらおしまい……。
とはならないのがこの絵本。
そしてラルフなのであります!
その思わず笑ってしまい、あきれてしまうラストを、ぜひご覧ください。
個人的には、生ごみを漁っているラルフの近くに、なぜか三羽鳥がいて、左右の鳥が真ん中の鳥を元気づけるようなそぶりをしていたり、ページのはじの細かいところにも、クスリと笑える要素があって、そこがまた素敵でした。
作者のあとがきには、「知っていることをかけばいいんだよ」という言葉。
こんな風に、背伸びせず、ありのままであることを認めてくれるひとだから、こんな作品を作り上げられたんだのでしょうね。
やんちゃ坊主、やんちゃガールに手を焼くおとうさんおかあさんにもおすすめしたい一冊です。