川の少年
暑くなってくるとすずしげな物語の本を読むことが多くなる。
海辺の町や村に住む少年のはなしやら、海賊のはなしやら、夜に抜け出して世界のひみつなんかをのぞきに行くようなはなし。
暑さから逃げるように、僕はその物語の中へ逃げ込むのだ。
この『川の少年』の世界にも、僕は3回くらい逃げ込んだだろうか。
病気になった大好きなおじいちゃんの最後の願いをかなえるために、主人公ジェスは、家族でおじいちゃんの育った故郷の川へ向かう。
そこでジェスは、とある少年と出会うのだ。
すべてのことには必ずはじまりとおわりがある。
すべてにである。
例外はない。
いつかみんな消える。
いつかみんないなくなる。
もし今、なにかに苦しんでいたり、かなしい思いをしていたとしても、いつかはそれを振り返る日が来る。
過ぎ去った日々はいつでも美しく見える。
だから、この物語はとても美しい。
作者はティム・ボウラー。
この作品でイギリスの児童書の最も偉大な賞であるカーネギー賞を受賞。
絵本作家でイラストレーターでもある伊勢英子さんの挿絵が児童書にぴったりの素朴さである。
翻訳も入江真佐子さんのおだやかな言葉づかいが心地よい。
おじいちゃんが悪態をつきながら主人公ジェシと話をするシーンのやさしさに充ちたこと。
そしてテンポが良い。
この作品は、おわりへの物語(おじいちゃん)であると同時にはじまりへの物語(ジェス)でもある。
だからどこかカラッとしていてすずしげな物語として完成されている。
読後も良い。
いつか僕も消えるのだ。
だんだん歳をとって、そうしていつか若い日のことを思い出したりするのだ。
永遠なんてないのだから。
宇宙のどこかのとてつもなくおおきな星がまばたきする瞬間が、僕等の一生分より長かったりする。
だけど、終着点についたとしてもおわりではない。
もしかしたら子どもがいるかもしれない。
自分の意思を継ぐ若いものがいるかもしれない。
いずれ忘れ去られたとしても、生きていたことは変わらない。
我々はおわる数だけはじまっていく。
夏が来る前に、夏が来たら。
そんなときにこの作品をおすすめいたします。
『川の少年』
作:ティム・ボウラー
訳:入江真佐子
絵:伊勢英子
もうすぐ夏か。
今年はなんの本を読もうかしら。