おやすみなさい おつきさま
ただただねむりたくなる夜があります。
なぜだかつかれてしまって、世界の終わりでも待つような気持ちになる夜が。
そのくせ、ねむっているうちになんだかいいことがありますようになんて、思ってしまう夜が。
つまるところ、憂鬱がそんなきもちにさせるのでしょう。
もういい年になったというのに、いつまでも甘ったれです。
だから僕は、ときどきこの絵本を開きます。
『おやすみなさい おつきさま』
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン
絵:クレメント・ハード
訳:せた ていじ(瀬田貞二)
出版社:評論社
対象年齢(筆者感覚):幼年から
表紙には暖炉が燃え、窓の向こうには月が星空のなかに浮かび、みどりの壁紙、クリスマスのような赤とみどりのカーテン。
ものがたりは、もうベッドに入っているうさぎのちいさなおとこの子が、部屋にあるいろんなものに「おやすみ」を言っていくというものです。
くしや、壁にかかる絵や、あかりや、あかいふうせんや、こねこや、てぶくろや、「しずかにおし」といっているおばあさんや、ほしや、よぞらや、おつきさまや。
やはり、こどもにはすべてのものにいのちが宿ってみえるのですね。
おやすみ、おやすみ、おやすみ。
うさぎの男の子がいうにつれ、部屋はだんだんとくらくなっていきます。
そして、そのぶん、そとのおつきさまはあかるく見えてきます。
おやすみ、おやすみ、おやすみ。
マーガレット・ワイズ・ブラウンの文章、クレメント・ハードの絵、瀬田貞二氏の訳文。
すべてがおだやかな、かつどこかさみしいこの絵本を作り上げるために一役買っています。
夜のとばりが降りてきて、世界はしずかにしずかに、息をひそめていきます。
どこかで熊の親子が歩き、ムカデが地を這い、野犬が川の水をなめ、小魚が海面を跳ね、サギが一声叫んで空を行きます。
僕はお酒を飲んで、深夜のテレビを意味もなくながめ、救われることもなく、なにかが変わることもない時間を過ごします。
あぁ、やっぱり、もうねむらないといけません。
一日を終わらせなければ。
それだけが僕にのこされた道な気がしています。
おやすみ、おやすみ、おやすみ。
どうか、このうさぎの男の子のようなこどもたちが、たのしく過ごせるくらいには、すてきな世界であれと思いながら。
このすばらしい絵本を紹介する記事がこのような文章になってしまって申し訳ないのですが、やはり僕は、この絵本を読むと、なんだかさみしくなってしまうのです。
そして、なんだか僕自身がさみしくなってしまったとき、おかしなはなしですが、読むとすこしさみしくなるこの絵本を時々パラパラとめくります。
すると、ふしぎとすなおに「おやすみ」と言えるような気分になれるのです。
そろそろほんとうに、僕もねむらなければならない時間になってきました。
おやすみ、おやすみ、おやすみ。
おやすみなさい。
それでは!