エンソくんきしゃにのる
旅に出ましょう。知らないところへ。知ってるところへ。
僕の家は電車の線路から近く、なかなかにしずかな住宅街なので、電車の通る時間になると、ガタゴト、ガタゴトと音が聞こえて、電車が遠ざかっていくのを感じることが出来ます。
その音を聴きながら、「どこか遠くにいきたいなぁ」などと思ってみたり、「みんなどっかに行ってるんだろうなぁ」なんて考えたり。
住んでいるところが田舎に片足が入ってしまっているような土地柄なので、山の方に向かって電車に乗ろうものならば、2,3駅で今ならレンゲソウ、菜の花やらが咲きみだれる田園風景のなかへ。
はぁ、どこかへいきたい。
街の中はせかせかしていて、呼吸が浅くなってしまいます。
深く息を吸えるところが良いですね。
と、ここまで考えて、僕はスズキコージさんの『エンソくんきしゃにのる』のことを思うわけなのでした。
『エンソくんきしゃにのる』
作:スズキコージ
出版社:福音館書店(僕が持っているのは『こどものとも』の抜き刷り版です)
まず最初にお断りをいただきたいのですが、わたくし、スズキコージさんのファンです。
絵本作家のなかでいちばん好きだと思います。
ほかの絵本作家とは一線を画した、おどろおどろしいと言われてしまうかもしれない魔法の国のようなイラスト、豪快でたのしいストーリー。
この方の絵本から伝わってくるメッセージは、僕個人としては
「とにかく楽しく自由に生きろ!」
なのです。
この方の絵本からは、ブカブカドンドンと演奏する楽隊の音が聴こえてくるの気がします。
たのしいたのしいおはなしの時を知らせる楽隊です。
僕は、そんなスズキコージさんが好きです。
そしてそんなスズキコージさんの絵本をおすすめするときに、まちがいなくいちばん最初に出てくるのもこの絵本です。
良い子も、いたずらっ子も、はみだしものも、みんな集まっておいで。
物語は、エンソくんがはじめてひとりでとおいいなかに住むおじいさんの家に、きしゃにのって訪れる、というものです。
絵本の物語は、個人的に「たったこれだけ」という話が好きです。
その「たったこれだけ」に、どれだけ作家なりの色をつけていくかがおもしろいですよね。
そして、この絵本の色は、まさにスズキコージ節全開の、遠い国のような魔法の国のような、すこしこわくて、ヘンテコリンで、だけどだからこそ、どんな子どもでも(いい子だっていたずらっ子だってはみだしものだって)受け入れてくれそうな、やさしくて自由なものです。
エンソくん(書きながら気づいたのですが、遠足から来てるんですね、たぶん)は、きしゃの旅で、途中の駅までいっしょに乗るおばさんと、そのあと、たくさんのひつじと乗ってくるひつじ飼いと出会います。
彼等は、セリフこそ少ないですが、エンソくんを見守ってくれるおとなたちです。
このおばさんとひつじ飼いはきっと僕たち、どこにでもいるようなおとなのことなのでしょうね。
僕もきっと、エンソくんみたいに、ひとりできしゃに乗って、どこか緊張しているような、わくわくしているような子どもと相席になったら、はなしかけたくなってしまうことでしょう。
見どころはやはり、ひつじ飼いのシーンでしょうか。
特に、エンソくんがおべんとうを買って、ふたを開けると、おおきなひつじのかたちのコロッケがごはんにのっているところなんて、きっとお子さんはよろこぶと思います。
なぜなら僕も「うおーっ」と言ってしまうくらい、おいしそうでかわいい。
おとなからすると、ひつじ飼いが、トウモロコシと飲んでいるびんの中身が気になるかもしれません。
ぶどう酒か、ラム酒あたりでしょうか。
ただ、ほんとうに僕からすると、1ページ1ページが見どころです。
いいとししたおとなのくせに、「旅してるとき、こんな世界があったらな」なんて考えてしまいます。
ぜひ一度手に取ってみてください。
きっと、どこか遠くへいきたくなってくる、そんな絵本になっています。
酒飲みながらコロッケ食いてぇなぁ。
それでは!